2012年12月10日月曜日

接着系アンカー VS コンクリート強度

笹子トンネル天井脱落事故で話題になっている接着系アンカーというものについて触れてみたいと思います。(接着系アンカーが総称名であり、ケミカルアンカーは、あるメーカーの商品名です。)

接着系アンカーを使用する工法は、あと施工で採用されることが多い。アンカーボルトの一種になりますが、そのアンカーボルトの機能から先ず簡単に説明しますと、アンカーボルトというのは、Aという構造体にBという別のものを緊結する際に用いるものです。

次に接着系アンカーというのはアンカーボルトにエポキシ等の化学剤を用いたものを言います。具体的な施工方法を説明しますと、既に存在するコンクリートにドリルで孔を開けて、そこに接着剤が入った筒状のカプセルを差し込み、更にボルトをねじ込んで、ボルトとコンクリートの孔との隙間を接着剤で充填して抜けないようにしたものを言います。

それでは接着系アンカーボルトを実際の現場でどのような箇所に使用するかというと、例えば増築工事などを行う際に梁、壁などの新旧接合部に採用される事が多い。アンカーの種類もいろいろなものがあって求められる接合強度に応じた種類があります。そしてその強度に応じた埋め込み長さであるとか、ボルト径などが定められます。

ここで今回のトンネル内の天井脱落事故を引き起こしたと思われる因子を私なりに挙げてみたいと思います。
1.吸排気ゾーンを造るための天井と隔壁を構成する材料にコンクリート板を採用した。
2.そのコンクリート板を支えるために重力に逆らった吊り方式を採用した。
3.地上から10m、天井から5mの高さにある箇所の点検方法をどのように考えていたか。

更にそれらの因子に関連づけられる問題点として

・重いコンクリート板を吊るために接着系アンカーを採用した。
・地中にあるコンクリート構造物への水の浸透を考えた場合に接着系アンカー強度への影響、または経年変化による強度劣化の懸念はなかったか。
・コンクリート勾配屋根の頂部に起きるとされている伸縮によるコンクリートそのものの強度劣化の可能性は考慮されていたか(関連記事=生目台の家の構造計画
・吸排気を行うための別の方法はなかったのか

などが考えられる。

今回の事故の原因は現段階ではまだ確定されておりませんが、これまで造られてきた、或はこれから造られるであろう構築物に多くの問題提起をしていると思われます。通常、何かものを造る際には、計画段階において大きく俯瞰的に捉えなければならない原則があります。それらは以下のようなものになるでしょう。

a.目的の確認(機能性と安全性)
b.経済性(予算と費用対効果の観点から)
c.デザイン性(総合的な解決方法を意味する)
d.維持管理(方法と予算確保)

これらの大原則は計画そのものの定規のようなものであり、仕事が細かい段階に入ってもいつもこの定規に即しているかをチェックを行うのが基本です。

事故現場ではいくつかの問題と時間が重なりあって、悲惨な結果を招いてしまったことは事実である。事故の教訓として原因を明確にし、将来の安全性への肥やしにしていかなければならない。

気になるのは今回の事故を引き起こしたとされる原因を結果的に採用するに至った経緯で、議論は尽くされていたのだろうかということである。最近のニュースを見ていると、どうにもそこら辺が気になってくるのである。







2012年11月1日木曜日

東京ぶらぶら

私の恩師がこれまでの建築家として歩んでこられた足跡を書籍にまとめられ、出版されることになりましたので、その記念パーティに出席をさせていただくということで東京へ行ってまいりました。(出版記念パーティ

一日だけ、余暇を設けましたので東京を散策する事にしましたが、いつもは良く古巣である吉祥寺であるとか青山近辺とかを歩いたりするのですが、今回は少し堅い街を歩くことにしました。

コースは三宅坂から始まり、桜田門→二重橋→馬場先門→丸の内→東京駅→有楽町→京橋→銀座→数寄屋橋と歩いてみました。途中で食事をしたり、お茶を飲んだり、建物を見たり、休んだりで東京の街をぶらぶらといった感じです。

一番町から始めるつもりだったのですが地下鉄下車駅を間違えて、地上に出たのが桜田門でした。もう引き返さすのをやめにして、そのまま先に進むことにしました。地下鉄の地上出口では護送車のような厳つい車が止まっていて、警察官が数人いたので何かあったのかとちょっと驚きましたが、そこは警視庁本館玄関前でした。

なるほど警視庁を桜田門とはよく言ったもので、丁度すぐ向かい合わせに桜田門が見える。そして隣には法務省のクラシックな建物が見えます。ここから桜田通りを挟み南西の方角に向かって霞ヶ関官庁街が続き、そして虎ノ門、神谷町、麻布へと、更に国道1号線として西国へ延びて行く。












桜田門から皇居へと入って行きました。

二重橋を訪れたのは今回が始めて。

♫ 記念の写真を撮りましょうね ♫

外国からの旅行者が目立ち、お互いを写真に撮り合ったりしていた。

皇居周辺のオフィスビル群は最近になって相当様変わりをしました。建物は巨大化し、そのデザインも洗練されている。質の良さと建築文化の進化を感じられずにいられない。丸の内周辺もきれいに整備されてきた。

丸の内街区は三菱が明治の初代から開発に関わってきた経緯もあって、現在でも街づくりに深く関与している。一つの街づくり理念が長い時間を通して浸透してきているので、東京の他の街区とは趣を異にしているところがある。他ではできなかった都市の在り方を可能にしている。












超高層ビルの谷間に低層建物の美術館、ティーテラス、レストラン、ショップなどを緑のオアシスの中に配置している。

現在の超高層ビルに建て替えるに当り、旧丸ビルに用いられた都市スケールの残像も新しい超高層ビルのフォルムに再び見ることができる。超高層から一昔前の歴史的なスケール、更に人に近いスケール、緑の遊歩道などをうまく調和させた街区に生まれ変わっている。











ここでは車より、人が優先されている。広い歩道の並木道。東京駅と日比谷通りの中間とは思えない静かな佇まいである。















旧丸の内ビル(1923年竣工)の杭に使用した松杭を展示してあった。(正面と床のショーケース)

長さ15mの松杭を5443本も使用していたそうだ。解体の時に地中から掘り出した杭からまだ松の匂いがしていたそうだから、如何に耐久性のある材料だったかを物語っている。およそ90年もの間、地中にあって腐らないとは驚きです。シロアリは霞ヶ関の方へ集まり、丸の内にはいなかったに違いない。











東京駅
きれいにリニューアルされていました。
水平に長く伸びていて全体が写真に納まらない。

周辺の超高層ビルは東京駅の空中権を借りる事によって存在しているのだそうだ。












丸の内側玄関前 

ステーションホテルと南口を結ぶ連絡路

クラシックな本館に対して、現代的なデザインのキャノピーを設けている。

正面突き当たりに見えるのが旧郵政省のビルです。ここも一部を保存し、超高層ビルへと生まれ変わっています。

お昼は丸の内ビルの地下レストラン街で牡蠣の天ぷら(フライではなく)を食べようと思っていました。おいしいランチを出すお店があります。しかし、東京駅を見終わったのがまだ11時過ぎです。少しお昼には早い。先に進む事にします。

有楽町のガード下の飲み屋というのは以前から知っていましたが、あんなに広範囲に渡って続いていたとは知らなかった。私が知っていたのはほんの一部だったようだ。

有楽町の裏通りを歩いていると日本人と欧米系の人が列を成している。中華の店先だ。引込まれるように列に並んで、直ぐ前の若者に尋ねた。「何が旨いの?」「餃子です」と返ってきた。小ぶりのバナナのような餃子が8個ほどお皿に載っていた。味は悪くはなかったが、私にはその夜に姉の家で食べた春巻の方が美味しく感じられた。














銀座中央通り

おしゃれなビル(ダブルスキンの表層)
このビルだけ抜きん出て高く建っているのが不思議。

歩行者天国では秋晴れの中、ヨチヨチ歩きの坊やを心配そうに見守るお父さんの姿が印象的でした。

銀座から新富町、八丁堀へと入るに従って、居住区に変わって行く事を伺わせる。その親子は近くから散歩に来たのだと思った。

この後、銀座のアップルのお店に立ち寄った。お店の中はお客で満員。英語と日本語が飛び交っていた。ここで働くには英語は必須条件だなと思った。とにかくそこには活気があった。

2012年2月14日火曜日

大津波が予測される今

東南海トラフ巨大地震中央防災審議の報告を受けて、これから予想される大津波に対して、建築物の災害対策に関連することについて述べたいと思います。


建築行政では、あの耐震偽装問題を境に建築構造基準と行政手続きが大幅に見直されましたが、その後に起きた大津波の対策にその見直しが障壁となっているのではないかと今、私は考えております。


基準法の見直しの結果として、津波対策には、有効と思われる異種構造を持つ建築物が現在では事実上できなくなってしまったのではないか。このことがここで言っておきたいテーマになります。


異種構造を持つ建築物は現状では適合判定などという厳しい審査を受けなければならず、そのための業務を行うためには、クライアントに多大なコストと労力をお願いする事になり、現実には極めて高いハードルになるであろうと思います。


そこで私がここで主張したいのは以下のようなことです。


大津波災害が及ぶ恐れのある沿岸部に建つ住宅では、1階は鉄筋コンクリートで頑丈に構築し、津波による住宅の破壊から人命と財産を守る、その方法を選択できるようにすること。

鉄筋コンクリート部分を車庫、倉庫、作業場、或いは店舗など必要に応じた施設に当て、2階以上を木造の住宅に当てるという構造は津波対策として大変有効な方法であると考えます。


全てを鉄筋コンクリートで造ってしまえる予算的な余裕があるならば、その心配は取り越し苦労となりましょう。


今後、国土交通省ではこのような異種構造を持つ建築物に対しても、従前のように門戸を開くことが必要ではないだろうかと考えます。沿岸部での津波災害に対して有効となる対策にも画一的な高いハードルを設けることではなく、人の命と財産を守る事への優先度を考慮すべきだと思います。


東北大震災後では行政が国民の命を守る事に関して考慮すべき条件が変わってしまいました。大地震対策だけでは不十分で、沿岸部での大津波対策も同様に考えなくてはなりません。